著者のコメント



地球環境を守るために

最近の気象、とくに夏の高温や大型の台風の発生には誰もが異常であると感じていると思います。この異常気象は日本に限ったことではなく、地球上のどの地域にも見られるようです。理由はいろいろ考えられますが、その大きな原因の一つに地球の高温化が挙げられます。

異常気象のイメージ
異常気象のイメージ
地球は太陽からの熱エネルギーを受けると同時に、人間活動によって発生した熱によっても暖められています。かってはこれらの熱は適当に地球外に放熱したり、植物の吸収などによってそのエネルギー・バランスが保たれていたのですが、温室効果ガスなどによってその放熱の仕組みがうまく働かなくなれば、その熱は海水に吸収されるしかありません。実際、低緯度地方の海水温はかなり高くなっているといわれています。これがたくさんの台風を発生させ、また洋上の高気圧を強める原因となります。台風は熱エネルギーを力学エネルギーに変化させて、低緯度地方に溜まった熱エネルギーを高緯度地方に分散させる効果をもたらします。

太陽からの熱エネルギーは一定なのですが、人間活動に起因する廃熱は減少させることが出来ます。それには、化石燃料の使用を控えて、代わりに太陽からのエネルギーを利用すればよいのです。これは再生可能エネルギーといわれていますが、この大きな欠点は天候に左右され、電力に変えたときの出力が安定しないことです。また、他の発電方法に比べて大容量発電に適していません。

この問題を解決するために、エネルギーとくに電気エネルギー(電力)として溜めておく技術を開発する必要があります。電気を流れの一つと考えれば、どんな流れにも一時的に溜めておく場所(プール)が必要となります。この蓄電技術について、現在行われているほとんど唯一の方法は蓄電池を束ねたバッテリー・システムなのです。この他にも回転体の運動量を利用したフライホィール方式などがありますが、これは現在のところ実験段階です。揚水発電は以前から行われていたエコな蓄電方法ですが、ダムが必要となります。これらのエネルギーを溜める方法は、その原理がそれぞれ全く違います。重要な問題の解決策は、原理の異なる複数個の方法を用意しておくのがよいのです。

揚水発電は重力を利用した蓄電方法です。重力は、物が移動しない限りそれを電力に変えることは出来ませんが、エネルギーを蓄える装置として利用することは可能です。この揚水発電の原理だけを応用した、ダムを必要としない蓄電方法が本文で述べた重力蓄電なのです。これは設備を屋内に設置でき、また環境に対してクリーンな蓄電方法と考えられます。私の試算によれば、現在あるダムと同じ位の広さの平地があれば、そこに重力蓄電のプラントを建設して、ダムによるものと同じ程度の蓄電は可能と思われます。

上で述べたこの構想は、全くの思考実験に基ずくもので、実用化の点で解決しなければならない問題がたくさんあります。しかし、将来のエネルギー事情および環境問題を考えると、今からその基礎研究をやっておく必要があると思います。この研究をさらに進めるには、個人の力に限界があります。そこで、この研究に対する協力者が欲しいのです。また、興味のある方の意見も伺いたいと思います。地球の未来について、皆様と共に考えていきたいと思っています。ぜひ、ご一報下さい。


再生可能エネルギーと重力蓄電

地域型オフグリッドの方法

1. はじめに

最近の、再生可能エネルギーといわれる風力発電や太陽光発電の普及に伴って、新しい蓄電技術の開発が急がれています。それは、これらの発電が天候の影響を受けるために供給が不安定であることで、これを改善するために発電された電気を一時的に溜めて平滑化する必要があるのです。しかしながら、今のところ実用化されている蓄電方法は蓄電池(化学バッテリー)と揚水発電しかありません。蓄電池は消耗品で、大量の電力貯蔵には向いていません。また、揚水発電にはダムが必要となります。

そこで、水の代わりに重りを使えば、揚水発電と同じ原理の重力を利用した蓄電法が考えられます。この重力蓄電は、一度建設してしまえば半永久的に使用でき、環境に負荷を与えません。これからの電力は再生可能な方法で発電して、再生可能な方法で溜めて使う時代になるかも知れません。以下に述べることは、地域で独立したエネルギー循環、すなわち電力の地産地消(オフグリッド)の方法です。ここで、地域の規模は人口が数100世帯の小さなコミュニティから数千世帯の中規模の地域を考えますが、これらは再生可能エネルギーとして生成される電力の発電規模で決まります。それに対応して再生可能な蓄電方法として重力蓄電を考えるとき、その規模がどの程度になるかを試算してみます。

2. 再生可能エネルギー

再生可能エネルギーとして発電する方法はいろいろありますが、その典型的な発電方法である風力発電と太陽光発電について、その規模により電力が供給できる地域の大きさを考察します。ただし、一戸での電力消費量を1日あたり\( 10 \ \mathrm{(kWh)}\)と仮定します。

(1)風力発電:現在稼働している風力発電機は、一基あたりの定格出力が \( 1.5 \ \mathrm{(MW)}\) から \( 2.5 \ \mathrm{(MW)}\) のものが多いようです。例として、一基 \( 1.5 \ \mathrm{(MW)}\) のものを考えることにします。これは瞬間出力であって、稼働時に\( 1500 \times 10^3 \ \mathrm{(J/s)}\) の出力があるということです。これを電力量でいえば \( 1500 \ \mathrm{(kWh)}\) となります。一日のうちで実際に発電に寄与される割合、すなわち利用率を20%と仮定すれば、1日あたり \( 1500 \times 24 \times 0.2 = 7200 \ \mathrm{(kWh)}\) の電力が得られます。これは1日あたり約700戸に給電が可能となる量です。もし、一つの地域にこのような風力発電機10基設置すれば、\( 7.2\ \small万 \ \mathrm{(kWh/\small日)}\) の出力によって7,200世帯へ電力を供給することができます。ただし、注意すべきことはこれらの出力電力がつねに一定ではないところです。自然現象から得られるエネルギーは時間によって強弱があり、それを平均化しなければ実際には使用できません。そのために蓄電装置が必要となるのです。

(2)太陽光発電:ソーラーパネル1枚の定格出力が \( 230 \ \mathrm{(W)}\) のものを考えます。これは瞬間出力であって、1時間では \( 230 \times 3600 = 82800\ \mathrm{(J)}\) の電気的エネルギーを生成します。\( 1 \ \mathrm{(kWh)} = 3.6 \times 10^6 \ \mathrm{(J)}\) だから、これは \( 0.23 \ \mathrm{(kWh)}\) の電力量に相当します。このパネルを10枚用意したとして、1時間あたりの発電量が \( 2.3 \ \mathrm{(kWh)}\) となります。さらに、1日のうち平均日照時間を4時間とすれば、1日に \( 9.2 \ \mathrm{(kWh)}\) の電力が得られることになります。これは普通の家庭で1日に消費する電力が太陽光発電だけで賄えるものと考えられます。ただし、蓄電装置は必要となります。

さらに規模の大きい太陽光発電所(メガソーラー)では、パネルを10,000枚設置したとします。すると \( 0.23 \times 10^4 = 2300 \ \mathrm{(kWh)}\) となり、1日の日照時間が4時間では \( 9200 \ \mathrm{(kWh/\small日)}\) で、これは約1000戸分に供給できる量になります。もちろん、夜間のために昼間得られた電力を蓄電しておくことは必要です。

3. 重力蓄電システム

揚水発電は、ダムに溜めた水に働く位置エネルギーを、放水によって運動エネルギーに変えて電力を得るものです。したがって、水を重りに代えた重力蓄電も同様で、膨大な設備が必要となってくるのは当然のことです。しかし、他の蓄電法に比べて、規模が大きくなった代わりに大きなメリットが出て来ます。それは、つぎのようなところです。

① 消耗するものはなく、半永久的に使用可能である。
② 環境に配慮した、再生可能な蓄電法である。
③ 規模をいくら大きくしても、危険性がない。

つぎに、この重力蓄電をシステム化した全体の配置(タワーユニット方式)について解説します。塔(タワー)を建てて上部に発電機を設置し、重りの落下によりその発電機を回転させて電気を発生させる構造体をつくります。通常は重りを、外部からの電源で発電機を電動機にして上部に持ち上げておきます。

(1)タワーユニット:高さ \( h = 100 \ \mathrm{(m)}\) のタワーを考え(半分は地下に埋めることは可能)、重りには鉄を使用します。鉄 \( 1 \ \mathrm{(m^3)}\) の立方体の重量は \( 7.9 \ \mathrm{(ton)}\) なので、これを4個重ねて重りとすれば、その重量は \( m = 31.6 \ \mathrm{(ton)}\) となります。このタワーの敷地面積は \( 2 \ \mathrm{(m)} \times 2 \ \mathrm{(m)} \) 程度でよく、内部はワイヤーに吊り下げられた重りが上下に移動できるようにします。これを重力蓄電の基本体として、タワーユニットと呼ぶことにします。

重りが上部にあるとき、このユニット1基に蓄えられる位置エネルギーは \[ U_0 = mgh = 31.6 \times 10^3 \times 9.8 \times 10^2 = 309.68 \times 10^5 \mathrm{(J)} = 8.6 \ \mathrm{(kWh)} \] となります。エネルギー変換におけるエネルギー損失を考慮しなければ、重りの落下によって発電機は \( 8.6 \ \mathrm{(kWh)}\) の電力を生成することになります。

(2)ユニット集合体:一つのタワーユニットにおいて、重りの落下時間と発電機による出力は反比例の関係になります。したがって、短時間で落とせば発電機に与える回転数は大きくなり、瞬間出力は上がります。逆に、長時間では出力は小さくなります。例えば、落下時間を \( t = 30 \ 分 \) としたときの出力 \( P \) は \[ P = U_0/t = 309.68 \times 10^5/1800 = 17200 \ \mathrm{(J/s)} = 17.2 \ \mathrm{(kW)} \] とかけます。このときの重りの落下する速度は毎秒 \( 5.5 \ \mathrm{(cm/s)} \) となります。もし、落下時間を \( t = 1 \) 時間にすると \( P = 309.68 \times 10^5/ 3600 = 8.6 \mathrm{(kW)} \) となり、出力は半減します。

そこで、運転時間(落下時間)を延ばして、しかも出力を大きくするにはどうしたらよいか、という問題が生じます。これを解決するために、いくつかのタワーユニットを束にして設置します。一つのユニットの設置面積が小さいので、かなりの本数をまとめてもダムほどの敷地を必要としません。これをユニット集合体といいます。例えば、\( 50 \ \mathrm{(m)} \times 50 \ \mathrm{(m)} \) の土地に建てられた建物の内に \( 25 \ (\small基) \times 25 \ (\small基) = 625 \ (\small基) \) のタワーユニットを収納すると、これに蓄えられる位置エネルギーの総計は \[ U = 8.6 \times 625 = 5375 \ \mathrm{(kWh)} = 5.3 \ \mathrm{(MWh)} \] となります。これは、500戸から600戸程度の地域に電力を供給することのできる量になります。

ユニット集合体の特徴は、多数のユニットの組み合わせによって運転時間や瞬間出力を制御することが出来ることです。例えば、運転時間を延ばすにはいくつかのユニットを連続的に稼働させればよく、出力を大きくするには複数のユニットを同時に稼働させてそれらの出力を重ねることで得られます。もちろん、これらは AI によって制御されることです。

4. 地域型オフグリッド

地域に建設した再生可能エネルギー発電所の発電規模によって、周辺の何戸の家に電力を供給することが出来るかが決まります。それに対応して、重力蓄電の規模を設計することになります。こうして、完全な地産地消の自然エネルギーのサイクルが出来あがるのです。これは、理論的には消費するものは太陽エネルギー以外に何もありません。そこで、いくつかの例を挙げます。

例1.(風力発電): 定格出力 \( 1.5 \ \mathrm{(MW)} \) の風力発電機一基を設置したとします。この瞬間出力は \( 1500 \times 10^3 \ \mathrm{(J/s)} \) ですが、利用率を20%とすると、これは一日あたり \( 7200 \ \mathrm{(kWh)} \) の電力となります(第2節参照)。一戸で一日の電力消費量を \( 10 \ \mathrm{(kWh)} \) として、これは周辺の地域の700世帯に供給できる量になります。ただし、風力発電機が発電しないときのために蓄電装置が必要です。

これを重力蓄電によって賄うとすれば、敷地 \( 60 \ \mathrm{(m)} \times 60 \ \mathrm{(m)} \) の建物の内部に \( 30 \ \mathrm{(\small基)} \times 30 \ \mathrm{(\small基)} = 900 \ \mathrm{(\small基)} \) のタワーユニットを装備すれば十分となります。なぜなら、これで蓄えられるエネルギー量は \( U = 8.6 \times 900 = 7740 \ \mathrm{(kWh)} \) となるからです。この数値は、発電された電力を一度蓄電してから使用することを前提としたもので、使用しながら蓄電を同時にするならば、実際の蓄電規模はもっと小さくなるかも知れません。

もし、この規格の風力発電機を10基設置したとすれば、\( 7.2\ \small万 \ \mathrm{(kWh)} \) の電力が得られ、地域の7200世帯に給電できることになります(第2節)。これに対応する蓄電設備としては、つぎのような蓄電プラントを考えます。敷地が \( 100 \ \mathrm{(m)} \times 100 \ \mathrm{(m)} \) の建物の内に、\( 50 \ \mathrm{(\small基)} \times 50 \ \mathrm{(\small基)} = 2500 \ \mathrm{(\small基)} \) のユニットを格納すると、その蓄電容量は \( U = 8.6 \times 2500 = 21500 \ \mathrm{(kWh)} \) で、これによって約2000戸に電力供給が可能となります。したがって、7200世帯の地域全体に給電するには、このような建物を3棟用意する必要があります。これは3ヘクタールの面積を持つダムに相当します。

例2.(太陽光発電): 定格出力が \( 230 \ \mathrm{(W)} \) のソーラーパネルを10,000枚設置した太陽光発電所では、出力の合計が \( 2300 \ \mathrm{(kWh)} \) で、一日の日照時間を4時間として \( 9200 \mathrm{(kWh/\small日)} \) の電力が得られます(第2節)。これを地域の1000世帯に配分するとき、必要となる重力蓄電の規模はつぎのようになります。

敷地面積が \( 70 \ \mathrm{(m)} \times 70 \ \mathrm{(m)} \) の建物の中に \( 35 \ \mathrm{(\small基)} \times 35 \ \mathrm{(\small基)} = 1225 \ \mathrm{(\small基)} \) のタワーユニットを設置すれば、蓄電容量は \( U = 8.6 \times 1225 = 10535\ \mathrm{(kWh)} \) となります。これで1000世帯は十分ですが、夜間の為だけならばもっと小規模にしてもよいでしょう。

5. 将来の展望

地球環境を維持していくには、人間はこれ以上の CO2 を排出する生活は出来なくなると思われます。そこで重要になってくるのは再生可能エネルギーで、そのほとんどは太陽に由来するエネルギーといってよいかも知れません。将来的には、この太陽からのエネルギーを上手に使っていくしかありません。一方で、この再生可能な方法で手に入れたエネルギーを溜めておく方法は、蓄電池(化学バッテリー)以外にほとんど持っていないのが現状です。とくに、揚水発電でダムがつくれない地方や国では深刻です。電気エネルギーを水素に変えて備蓄する方法が研究されていますが、安全な形で実用化されるまでには更に時間が必要のようです。

環境に負荷をかけないクリーンな方法で、エネルギーの地産地消を考える時代が来ているように思います。それには大規模である必要はなく、再生可能エネルギーに伴って地域ごとに出来るのがこの地域型オフグリッドの特徴です。この方法の利点として、つぎのようなところが考えられます。

(1)再生可能な方法で、完全なエネルギー循環ができる。
(2)消費するものはなく、将来にわたって持続可能性がある。
(3)地域限定だから、送電線がいらなくなる。

電力の需要先を産業用と住宅用に分けて考えれば、この地域型オフグリッドはとくに住宅地に適した方法であると考えられます。この方法は決して無理なことではなく、都会地でも用地を工夫すれば可能となります。そして、地域でつくられた電力を、送電線を経由せずに、その場で使うことになります。送電線によるエネルギー・ロスによって、大きな無駄をしていることに気付くべきです。参考のために、上で試算した結果を表にまとめたものを以下に示します。

地域型オフグリッドの表:

1世帯の電力消費量 \( 10 \ \mathrm{(kWh/\small日)} \)

再生可能エネルギー 定格出力 実行出力 地域戸数 重力蓄電規模
風力発電機
1基
\( 1.5 \ \mathrm{(MW)}\)
\( 1500 \ \mathrm{(kWh)} \)
利用率 20%
\( 7200 \ \mathrm{(kWh/\small日)} \)
700戸 建物 \( 60 \ \mathrm{(m)} \times 60 \ \mathrm{(m)} \)
\( 7740 \ \mathrm{(kWh)} \)
風力発電機
10基
\( 15 \ \mathrm{(MW)} \)
\( 15000 \ \mathrm{(kWh)} \)
利用率 20%
\( 7.2\ \small万 \ \mathrm{(kWh/\small日)} \)
7200戸 建物 \( 100 \ \mathrm{(m)} \times 100 \ \mathrm{(m)} \)
を3棟

\( 21500 \times 3 \ \mathrm{(kWh)} \)
太陽光発電
ソーラーパネル

10,000枚
パネル1枚
\(230 \ \mathrm{(W)} \)

\( 2300 \ \mathrm{(kWh)} \)
日照時間
4時間

\( 9200 \ \mathrm{(kWh/\small日)} \)
1000戸 建物 \( 70 \ \mathrm{(m)} \times 70 \ \mathrm{(m)} \)
\(10535 \ \mathrm{(kWh)} \)

横にスクロールしてご確認ください。

上で試算した結果は、エネルギー変換の際のエネルギー損失を考慮していません。したがって、実際にはこのような数値は期待できません。しかし、将来の技術力の向上によって、この理論値に近づけることは可能です。この表の数値は、設備の規模を考える上での参考にして下さい。

2021年12月