最近の当研究所の活動報告を、時系列にて以下に記します。
1. 2020年12月:出版物「重力を利用した蓄電装置」(武笠敏夫著)を社会評論社より出版しました。
2. 2021年5月:JAXA(宇宙航空研究開発機構)の要請を受けて、「重力を利用した蓄電法の力学」について講義(オンライン)をしました。
なお、航空宇宙学会のホームページに、「JAXA宇宙ビジョン2050増補版」の協力者として武笠・山田(重力再生エネルギー研究所)が記載されています。この報告書の中で、人間が月面上で定住するために必要な蓄電方法の一つとして、「重力蓄電」が検討されています。
3. 2021年7月:電源開発株式会社(J-POWER)の依頼により、当研究所の資料を送付いたしました。後に、当会社は「重力蓄電」の技術開発をするつもりはない旨の回答を受け取りました。
4. 2021年11月:第65回宇宙科学技術連合講演会にて、「重力を利用した蓄電法の力学」の題目で講演をする予定になっています。
2021年9月
追記:上記の講演会は、2021年11月9〜12日に開催され、私は、10日に「重力を利用した蓄電法の力学」のタイトルで講演しました。
2022年1月
いま世界では、化石燃料の代わりに風力発電や太陽光発電のような再生可能エネルギーに移行する方向になってきています。このとき問題となるのは、これらの再生可能エネルギーは天候などに左右され、供給に不安定さがあることです。そこで、生成された電力を一時的に蓄電して安定化を図ることが考えられます。もちろん、再生可能な方法で得られたエネルギーは再生可能な方法で蓄えておくべきです。
最近設立されたEnergy Vault 社というスイスの会社では、コンクリートブロックを積み上げて電力を位置エネルギーとして溜めておき、必要なときにクレーンでブロックを下ろしてその運動エネルギーで発電するというシステムを開発しているそうです。残念ながら詳しい仕組みやデータが公開されていないので何とも言えませんが、これは当研究所(重力再生エネルギー研究所)が考えている重力を利用した蓄電方法と、原理的には同じものと思われます。今後の進展を見守りたいと思います。
以下は我々の研究所が考えている重力蓄電のプラントの構想図で、大きな建物の中にエレベーター型の重量落下装置を束にして格納したものです。規模にもよりますが、このプラントで 数10 MW の電力が蓄えられる計算になります。
将来のエネルギー源として再生可能エネルギーを積極的に取り入れることを考えるならば、エネルギーを大量に貯蔵する技術を同時に開発しておく必要があります。そのために重力を利用することは優れた方法だと思います。次世代の蓄電方法として、この方面の研究・開発が世界規模で盛んになっていくことを期待しています。ここで、ビル・ゲイツ氏の次の言葉を紹介しておきます。
Wind and solar won’t reach their potential until we vastly improve energy storage. There are some exciting companies working in this space ( like @ Bill Gross and Andrea Pedretti’s Energy Vault ), but we need even more innovation.
2018 / 8 Bill Gates
近年、地球温暖化に伴って再生可能エネルギーの利用が盛んに叫ばれています。しかし、この種のエネルギー利用を発展させるためには大規模な蓄電技術が必要となります。そのためにどんな方法が可能か、とくに地球に負荷をかけない方法を考えます。
現在知られている主な蓄電方法を紹介します。
(1)蓄電池(バッテリー):一番よく使われている便利な道具として知られています。化学反応のポテンシャルエネルギーを用いたもので、歴史的には古く、その原理はボルタの電池までさかのぼります。しかし、何度も使用するうちに老廃物が溜まり、使用に限界があります。また、製造および廃棄の過程で環境に負荷を与えます。
(2)フライホイール:力学の原理の一つに外力が加わらなければ、物体の角運動量は一定に保たれるという法則があります。この性質を利用して、大きな重量の回転体に回転エネルギーの形で電力を蓄える装置をフライホイールといいます。これには、回転摩擦を軽減させる工夫が必要となります。
(3)超電導電力貯蔵:温度が絶対零度近くになると、電気抵抗がほとんど 0 になる物質を超電導物質といいます。この状況下では、電気抵抗がないためにエネルギー損失がなく、大電流をいつまでも流すことができます。外部からの電力を超電導物質の中で大電流として流しておけば、電力が必要なとき磁気エネルギーとして取り出すことができます。ただし、装置を極低温に保つために別のエネルギーが必要となります。
(4)水素燃料電池:基本的な考え方は、再生可能エネルギーから得られた電力によって水を電気分解して取り出した水素を貯蔵しておく方法です。水素は燃料電池の燃料となります。これは水素燃料電池と呼ばれています。この水素による発電は、効率もよく廃棄されるのは水のみで環境の面からも優れています。次世代のエネルギー源として、現在いろいろ研究されています。ただし、水素を貯蔵する技術上の問題があります。
(5)揚水発電:夜間の余剰電力によってポンプを回し、水を上部のダムに汲み上げておきます。電力が必要になったとき、普通の水力発電として電力を得ます。これは昔からやられている方法で揚水発電といい、環境に優しい蓄電方法といえます。大量にエネルギーを溜めることはできるのですが、ダムが必要となります。
上で述べた蓄電システムのうち、現在のところ実用化されているものは蓄電池と揚水発電のみです。水素電池は将来的に有望視されていますが、まだ実用化の段階になっていません。超電導蓄電とフライホイールは現在、研究開発中です。
環境にもよく、大規模蓄電として最も適している方法は揚水発電なのですが、残念なからダムをつくるには地形的制約があり、これ以上建設するのは無理と思われます。とくに、山地のない地方や国々ではダムは不可能となります。
揚水発電は、水に働く重力のポテンシャルエネルギーを利用したもので、もし水の代わりに重りを用い、余剰電力にかわって再生可能エネルギーで発電された電力を使えば、これでダムの必要のないクリーンな蓄電装置ができます。これは、いわば平地でできる揚水発電というべきものです。
つぎに、この重力蓄電装置について説明します。高い塔の中に重りが上下する構造体をつくります。重りは上部に固定された発電機とワイヤーで繋がれ、重りが重力によって落下すると発電機に回転が与えられ、電力が得られるようになっています。これは蓄電装置としての放電部分ですが、充電部分はつぎのようにします。上部の発電機を電動機として、外部電力により重りを上へ吊り上げます。これによって与えられた電気エネルギーは、上部に移動した重りによってポテンシャルエネルギーとして蓄えられます。このエレベーターにも似た塔を、タワーユニットと呼ぶことにします。もし重りに密度の高い物質、例えば鉛などを用いれば、このタワーユニット一基が占める床面積は \( 2 \times 2 \) (m2) 程度でよく、この中に数10トンの重りを上げ下ろしさせることができます。タワーの高さは、半分地下に埋めるとして、100 (m) は十分可能です。これでかなりのポテンシャルエネルギーが蓄えられます。大きな建物を用意して、このユニット数1000基を束にして格納します。もし、この規模の建物をいくつか建設できる場所があれば、これは一つのダムに匹敵する蓄電プラントになります。これが将来の重力蓄電法の構想です。
この方法で、どのくらいの電力が蓄えられるかの試算をしてみます。重力加速度を \(g\) とすると、床面から高さ \(l\) の位置にある重量 \(m\) の重りが持つポテンシャルエネルギーは \(U = mgl\) とかけます。いま、\(l = 100\) (m), \(m = 20\) (ton), \(g = 9.8\) (m/s2) として、タワーユニット一基に蓄えられるエネルギーは \[ U = mgl = 2 \times 10^4 \times 9.8 \times 100 = 19.6 \times 10^6 \quad \mathrm{(J)} \] となります。これを途中のエネルギー損失がないと仮定して、30(分)かけて落下させたときの生成される電力 \(P\) は \[ P = mgl/t = 19.6 \times 10^6 /1800 = 10.89 \quad \mathrm{(kW)} \] が得られます。このユニットを \( 200 \times 200\) (m2) の建物の中に収納したとして、\( 100 \times 100 = 10^4\) 基では \( 10.89 \times 10^4\)(kW)、すなわち建物 1 棟で約11万(kW) の電力が蓄えられます。この建物を例えば5ヶ所に分けて設置したものを一つのプラントとすると、このプラントで \(11 \times 5 = 55\) 万(kW)\( = 550\) (MW) の電力を貯蔵できます。これはダム 1 個分に相当します。
実際には、いろいろな制約があり、またエネルギーロスなどによってこの試算の半分も有効になればよいと思われますが、将来のエネルギー事情を考慮すれば、このような大電力貯蔵システムを考えてみる価値はあると思います。
つぎに、このシステムの稼働のさせ方を述べます。天候条件のよいときに再生可能エネルギーで発電された電力により、重りのすべてあるいはその一部を上部に上げておきます。放電の際に、ユニットのいくつかを同時に落下運転させれば、その出力を倍加させることができます。また、各ユニットをつぎつぎとリレー式に落下させれば、運転時間を延ばすこともできます。これらの仕方は、回路の結線とコンピューターによる制御の問題となります。いずれにしても、このシステムはユニット単独では機能しません。このタワーユニット方式は、その複数本が合わさって一つの機能を持つという考え方で、これはこのシステムの基本となっています。
最近の異常気象は世界規模になっています。地球の温暖化がその大きな原因の一つと云われています。しかし、人間が生存していくためには何らかのエネルギーが必要になります。今まではそのほとんどを化石燃料に頼ってきましたが、これからは地球環境の面でこれが難しくなっています。一方、地球に放射される太陽エネルギーは莫大です。風力も水力も、もちろんソーラーパネルも、これらから得られる電気エネルギーはすべて元々は太陽エネルギーからのものです。
この再生可能エネルギーをうまく使いこなすには、大量に蓄電できる装置が必要となります。これからの時代は、エネルギーは溜めて使うようになると思われます。現在、電力を貯蔵する方法として大量の蓄電池を用いる方法が主流のようですが、これはコストも高く、将来のためにはこれ以外に次世代型の新しい電力貯蔵技術を研究開発すべきだと思うのです。新しい道具や技術が、ほんとうに人間生活の役に立つものかどうかは、後の世の人々が判断することです。必要のないものは消えていき、その時代に合った重要なものだけが残ります。そして、再生可能な方法で得られたエネルギーは、環境に優しい方法で蓄えておきたいものです。
新しいものを取り入れるとき、何を基準に判断するかは大変興味が持たれることです。普通考えられることは、その効率性とコスト、将来性などでしょうが、これからは環境問題をどれだけクリアーしているかも、重要な判断材料となると思われます。効率や経済性だけでなく、他の視点からの価値観で動いていく世の中に期待します。
2020年7月
産業革命以来の機械文明の裏には、これを動かすための莫大なエネルギーの存在があります。現在まで人間は、そのエネルギーのほとんどを化石燃料に頼ってきました。ところが、この石油や天然ガスなどの地下資源は地球上どの地域でも平等に埋蔵されているのではなく、これらが産出する国や地域が偏っているため、つねに紛争の中心となっていました。自分の国で消費するエネルギーを、他国の地下資源に頼るというこの現代文明の構造は、不安定で危ういもののように思われます。
もし、人間が化石燃料の代わりに再生可能エネルギーのような新しいエネルギー源に転換するならば、地球環境の問題も地域紛争の問題も同時に解決するはずです。なぜ、世界はこの方面の研究・開発に投資をしてこなかったのか、不思議に思えます。例えば、太陽エネルギーは地球上のどの地域にも平等に送られて来ます。このエネルギーを上手に使う技術開発をすぐにでも始める必要があります。コスト・効率で測る経済原理の価値観が変わる時代が来ることを期待しています。
ウクライナ侵攻によせて 2022 年4月
このホームページの内容を1冊の本にまとめました。入手ご希望の方は、各通販サイトまたは書店にてお買い求めください。部数に限りがあります。
2020年12月
この研究をさらに発展させたいので、研究方針や技術上の工夫などを話し合うために、仲間を募っています。興味のある方はホームページの「お問い合わせ」の窓口を利用するか、下記までに直接連絡して下さい。また、将来「重力蓄電学会」を立ち上げることも考えています。
重力再生エネルギー研究所 武笠敏夫
270-0007 千葉県松戸市中金杉 4-71-2
jsekmukasa@gmaile.com